つづく 

2020年7月3日〜11月8日まで、兵庫県立美術館で開催中のmina perhone つづく展を見てきました。

mina perhonen (ミナ ペルホネン)は1995年に皆川明さんが立ち上げたブランドです。生地のデザインから作る事が特徴で、時代に流されず、長く愛されるものをつくるブランドです。皆川さん自身も『せめて100年続くブランド』を目指してはじめられたそうです。

NHKの日曜美術館で特集されていた時、『自分がやりたいことは自分の人生だけじゃ足りないと思った』と話されてたことが印象的でした。

mina perhonen (ミナ ペルホネン)つづく展については公式HPのMOVIEページにて皆川さんからのメッセージやギャラリートークで詳しくお話されています。https://mina-tsuzuku.jp/movie/

ミナ ペルホネンは私がテキスタイルの仕事を目指すきっかけでもあり、10代からあこがれのブランドでした。
初期のデザインはミナに夢中になっていた当時の自分を思い出します。

私がミナと出会ったのは私が10代後半〜20代の頃。雑誌の表紙で市川実日子さんが着ていたtambourine(タンバリン)や、セレクトショップで見た、forest parade(フォレストパレード)のワンピースでした。なんて手の込んだ服だろう、そして服にそのまま絵を描いたようなものもあり、その自由な発想やテキスタイルの表現のバリエーションに魅了されました。

注目して見ているうちにトリバッグやエッグバッグなど、どんどん乙女心をくすぐるアイテムが発表され、京都に直営店ができた時は、道に迷いながらドキドキワクワクしながら扉を開けたことを覚えています。

当時ミナの商品を見ているうちに、いつかこんな仕事をしてみたい、自分が描いたものが服になったり、バッグになって、使ってくれる人がいて、ちょっとでも楽しい気分になったら、こんな素敵な仕事はない、と思うようになりました。何よりもワンシーズンで終わるものではなく、長く使えるものを作る、またそれを作り続けるという理念が心に強く残りました。

ここからはつづく展で私が感動したポイントを紹介していきます。

mina perhonenのここがすごい!
①作り手の熱量がすごい
ミナのテキスタイルが作られるプロセスにとても興味がありました。
『芽』のフロアではミナのテキスタイルの原画が展示されています。これがすごく興味深かった!ミナの図案はすべて手書き、またはちぎり絵など、手作業で作られています。特に感動したものをいくつかご紹介します。

“surplus” 切り絵で残ったものを散りばめたような図案
本当に紙を切って散りばめて作ってる!
リピートのサイズやプリント柄にする時の注意点等細かく書き記されています。

テキスタイルの図案は、図案だけで完成するものではなく、生地になり、製品になった時のことをイメージして図案をつくります。

ミナは手書きのタッチを大事にしていますが、それをそのまま生地に表現することは、本当に大変なことです。通常は細かいディティールや複雑な仕様は量産していく上で効率が悪く生産性が劣ることから、工場からデザインの変更を求められることも少なくないです。

そういった中で、生産性を重視するのではなく、自分たちの思い描いた世界を表現するために現場の方に伝えようとする熱量がすごい!特に図案の欄外の手書きの部分に強い意志を感じます。
またそれに応えるように、表現の難しい事にチャレンジしている工場がすごい!工場の職人さんがミナの生地を作っている映像が紹介されていて、ハンドプリントで丁寧にプリントしてたり、ゆっくり針を刺す刺繍機など、すごく時間と手間がかかっている!

ミナは協力工場を公表しており、工場や職人さんを尊敬しながら一緒にものづくりに取り組んでいる様子がよくわかります。

だからこそ、最初の図案の手書きのタッチや感情や温度まで伝えられる、心ときめく商品が出来上がるんですね。

手書きの細かい指示書
プリントの指示書。口頭でも説明して、さらに指示書でもしっかり書き込まれています。

mina perhonenのここがすごい!
②テキスタイルの可能性
ミナはテキスタイルにいろいろな仕掛け(新しい可能性)を組み込んでいます。布でこんなことできるの?という驚きと発見とわくわくがあります。

サークル部分をカットするとちょうちょが現れる《kakurenbo》
毎年一箇所づつ切れば、毎年新しい洋服に
自分で洋服の表情を変えて、自分だけのオリジナルの洋服にできる。

mina perhonen dop というインテリア商材向けの生地を展開しています。
この生地は使い込んで擦り切れたところに新しい色が出てくるという仕掛けがある生地。長く使うことで経年変化を楽しみながら使うことができます。

yuki no hi というコートにもこの手法が使われており、グレー地のコートの裾や袖口が擦り切れてくるとイエローが見えてくる。

生地は消耗品だから擦り切れたら買い換えるものという考え方ではなく、最初から長く使うことを想定して擦り切れても楽しめるようにデザインされていて、ミナの使う人に対する優しさや思いやりみたいなものを感じます。

作って売って終わり、じゃないところが魅力的。

mina perhonenのここがすごい!
③皆川さんはデザイナーというよりもはやアーティスト
展示では皆川さん個人の活動も紹介されています。
朝日新聞のコラムや小説の挿画や絵本の原画も展示されていました。

私はデザインとアートの境目って何だろうとよく思います。
学生の頃に美術の先生が、『目に見えるものを描くのがデザイン、目に見えないもの(人の感情や匂いや温度など)を表現するのがアート』と教わりました。

それに従えば、皆川さんの個人の活動はどう見てもアーティスト。
ミナでの活動も、風を感じるような花柄<window flower>や雪がしんしんとふる静かな夜の気配まで感じるような<yuki no hi>の柄は、もはや着る芸術品のよう。
叙情性のあるデザインだからこそ、こんなにも心惹かれます。

会場の壁にある皆川さんの言葉にその世界観の種があるように感じました。

皆川さんは、ものが作り手から使い手に渡って、そこに生活や日常がある。
それもひとつのつづくということだと語っています。

つづく展の『風』というフロアでは、ミナの服を着ている人々の日常を映像で見せています。

また『土』というフロアでは、ミナを着ているお客様の洋服とそれにまつわる思い出を見る事ができます。
ミナの服にその時あった物語や感情を重ねて展示しており、ミナの洋服は時に活力を与えてくれたり、前向きに生きるためのきっかけになったりしていました。

このブースがすごく良くて皆様の思い出を読みながらちょっと泣きそうになりました。(暗く静かなブースなので、写真取れませんでした)

長く愛されるものを作って、使う人の日常や感情が重なり思い出になったり、毎日を生きる活力になったり、そうやって続いていくこと循環していくことが『つづく』ということ。
なるほど!きっとみんな知らず知らずのうちにそういった循環の中で生きてるのかもしれません。

会場にはこんな素敵な仕掛けも

テキスタイルやデザインには、使う人を楽しませたり、ワクワクさせたり、驚かせたり、人生の転機に背中を押したり、まだまだいろんな可能性がある事を再発見しました。自分にも、今からでも、ほんのちょっとでも、できる事があるかもしれない。自分がやる事も、誰かにつづいていく事があるかもしれない。そんな期待を持ちながら、前向きに自分の制作を続けていこうと改めて強く思いました。ミナに憧れた数年前の私のキラキラした気持ちを思い出しました。

collection

december

クリスマスやリースをイメージして作成しました。

冬の寒い季節にぽっと色づく赤い実が、ほんのり温かみを与えます。